ない。自然の景色が目に見えない。作者は森のことを云ってるが、何処に、どんな森があるのか、ハッキリしない。
「『貧農組合』は集団農場の建設を励まさねえ。がっかりさせちまう」
ザイツェフが合槌を打った。すると、
「いらない本だヨ」
と、ゆっくりした調子で切り出したのは、貧農で、家族がうんとあって、コンムーナへ入ってからやっと凌げるようになったスチェカチョフだ。
「集団農場へ気をひくためにゃ、これんばっかりも役にゃ立たねえネ」
自分の横っ腹のところを指さして、
「ここんところを、逆にひっぱられるみてえだ。俺はこれまで本読みに中坐したことはなかったが『貧農組合』にゃ半分頃で出ちまった。眠たくなってなア。本の中には滑稽なところもあるが、気持のよくねえ滑稽だ。俺は笑わねえ。集団農場の仕事で一等心をつかまえることを、作者は書いていねえ。集団農場の建設の事業はソヴェトで、もう十年もやられて来てる。もちっと親切に書くこったって出来たべえに……。小説ん中に富農の襲撃がある。けんど、集団農場建設をすける意味で、政府から何の助力も与えられていねえネ。アグニェフを半殺しにした。それっきりだ。民警さえいねえ。
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