ンムーナ「五月の朝」の組織者の一人で、トラクター管理をまかされている。彼は「貧農組合《ブルスキー》の中に、今集団農場のことが出て来るか、今出て来るかと、そればっかり期待して聞いていた。ところがすっかり当がはずれた。ブリーノフはもう九年コンムーナで暮し、それがどういうものだかよく知っている。
「けれども、そういうとこで暮したことのねえ者は『ブルスキー』を読んできかせて見な、ドマついちまうよ。一体どんな集団農場だね? バカと荒地だ」
「パンフョーロフは、謎ばっかかけるけれど、その終りが、ありゃしない」
 細い、確かりした眼付でブリーノフはつづけた。
「シロコイエ村に、階級闘争が起らなくちゃ成らなかったべえか。俺にゃ分らん。村のあらかたが富農だ。たった一人の貧農シュレンカは懶けもんだ。そこにどんな闘争があるかね」
 人物が活々描かれていない点がブリーノフにとっても不満足だ。まるで村を通って、百姓に出会ったはいいが、挨拶して、そのまんまわきを通りぬけちまったような工合だ。言葉が持ってまわっている。ほんとに農民らしい、一言きいて多くのことが分るような上手い言葉なんてものは、一つもこの小説の中には
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