「貧農組合」には印象に残るような情景が書かれていないと云っている。そして、声を立てて笑い出した。
「シュレンカが夜ふけてトラクターを動かしている。作者がそこで云ってるには、彼の眼は輝いた[#「彼の眼は輝いた」に傍点]! とさ。シュレンカの眼は、狼の眼かね? 作者はうまい思いつきを書きたかったんだろうが、夜にゃ、向かねえ」
「この『貧農組合』についちゃまだこうも云い度いよ。こりゃ読む者が、その中から小銭を見つけ出さなけりゃならない塵塚だ、とね。誰かがそいつを見つけるかも知れん。だが、見つけられねえかもしれん。小説はまるで芝居で最後の幕がしまるように終ってる。作者の言葉は、重っ苦しい。大衆の会話は――長談議だ。聞いてると、まるで泥濘《ぬかるみ》さはまって足を抜けねえような塩梅式だ」
「思うに、無駄ばっかりだ」
四十男の働き者のブリーノフが続いて云い出した。
「俺の好みがそうなのかも知れねえが、こういうことは二章で書けたと思うね、それをパンフョーロフは十章にしている。八章の間俺達あ歯くいしばって坐っていた。集団農場の生活を書いた小説だが、俺は、集団農場員として、この小説ん中のことは本気に出
前へ
次へ
全121ページ中82ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング