往還に、懐しいロシアの耕地に、黒い鉄の手の[#「黒い鉄の手の」に傍点]出現することは、どうしても理解も我慢も出来なかった。詩を書くと、類の少ない「言葉の調律師」であった彼も、ソヴェト農業というものの本質についての理解のしかたは、昔のムジークそっくりであった。彼は「農業機械のきらいな農民」を客観的に歌うのではない。いきなり、直截に、自身の心をむき出して、そんなものはイヤだ、イヤだと絶叫した。
 全露農民作家団は、革命第十年目のソヴェト同盟に生活して、エセーニンがあったほど、そのように素朴ではない。
 党は彼等を支持しているけれども、それは農民のうちに社会主義的な生産方法によって行われる新しい農業、農村生活への理解を発育させ、明日の農村のあることを予見する農民のための芸術団体として価値を認めているわけである。
 そのことを知っている農民作家は、それ故、田舎娘の赤いエプロンと、ゆっくりした碧い瞳の動き、牛の鳴声、ポプラの若葉に光るガラス玉の頸飾ばかりを書いているのではない。村のコムソモールの生活も、トラクターも書く。しかし、年とった農民がそのトラクターを眺めて溜息をついて疑わしそうに否定的に
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