男達の様子が、それがすんだ朝になると、スーラーブにはこわい、一つの夢のようにさえ思われた。
けれども、夢でなかった証拠には三日三夜の退屈至極な儀式が彼を捕えた。昼間一杯と夜の三分の一ほど、スーラーブは、数多《あまた》の家臣の先頭に立って、シャラフシャーの云う通り、
「我等の神、ミスラ、汝の嫡子、サアンガンの王の王」と、大きな声で繰返したり、理由のわからない面倒な手順で、石の平べったい台の上に、穀物や、乾果や、獣肉を供えなければならない。
それにも拘らず、スーラーブの心には、ちょいちょい、祖父が死に際に云った言葉が蘇って来た。そして、彼を不安にした。
何かしている最中でも、ふと、「父のない息子を見よ、と云われるな」という文句をまざまざと耳元でささやかれるように感じる。瞬間、彼は何も彼も放ぽり出して、後を振向いて見たいような衝動を覚えた。彼にそれをさせないのは、シャラフシャーの意味ありげな、咳払いと流眄《ながしめ》があるばかりである。辛うじて、統治者らしく威厳を保ちはするものの、暫時彼は、臆病な、困った顔付きで、無意識にしかけた仕事をつづけるのであった。
スーラーブに、祖父の云った
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