古き小画
宮本百合子

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)四辺《あたり》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)二三度|霰《あられ》がすぎてから

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、底本のページと行数)
(例)鐃※[#「金+(祓−示)」、第3水準1−93−6、345−9]《にょうはち》
−−

        一

 スーラーブは、身に迫るような四辺《あたり》の沈黙に堪えられなくなって来た。
 彼は、純白の纏布《ターバン》を巻いた額をあげ、苦しそうにぎらつく眼で、母を見た。
 彼女は、向い側で、大きな坐褥の上に坐っている。その深い感動に圧せられたようにうなだれている姿も、遠くから差し込む日光を斜に照り返している背後の灰色の壁もすべてが、異様な緊張の前に息をつめ、見えない眼をみはっているように感じられる。
 スーラーブの、過敏になった神経は、それらのものから、異常な刺戟を受けた。部屋じゅうには、何か窮屈な、身動きも出来ない霊どもが一杯になって、切に、彼からの一言、快適
次へ
全143ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング