な一つの動作を、待ち、望んでいるように思われる。
実際、スーラーブは、この場合、自然な自分の数語、一挙手が、どんなに内房《アンダルーン》の空気を和げ、くつろがせるか、よくわかっていた。けれども、平常、あれ程自由に使われると思った言葉が、彼の頭から消えてしまった。実につきない余韻を以て鳴り響くようなこの感動を声に出して表わそうとすれば、意味をなさない、一息の、長い唸りでも響かせるしかないのだ。
強て、何とかしようとする焦心は、一層、スーラーブの感情を苦しくした。
彼は、いたたまれない様子で、いきなり立ち上った。そして、真直に母の前を横切り、内房に属する柱廊に出た。
そこには、日増しに暖くなって来た四月のツランの日光が、底に快よく肌を引しめる雪解の冷気を漂わせながら、麗らかに輝いている。スーラーブは、思わず貪るように新鮮な外気を吸い込んだ。そして不思議に混乱した力を、再び集めとり戻そうとするように、立ち止まって、拳を一二度握りしめ、開きし、のろい歩調で、柱廊の端迄出て行った。
粗い、自然石を畳みあげた拱《アーチ》の中からは、一目に城内の光景が見晴らせた。
つい傍に迫っている建物
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