言葉の全体の意味は解らなかった。ただ、何か大切な訳のあるらしいことだけは感じた。その特殊な重大さは、全く自分に関係していることに違いないのだが、そのことに就いて、何も知らず、告げられもしないということが、一層、祖父の言葉を恐ろしく思わせる。
祖父の代りに、今度はシャラフシャーを指導者として、スーラーブの日常は、再び、従前通りに運ばれ始めた。元と違う点といえば与えられる訓練が益々秩序的になったことと、今迄無頓着に語られていた昔噺や英雄の物語が何処となく教訓的な意味を添えて話されるようになったという程度であった。
然し、スーラーブの内心では、著しい変動が起った。祖父の言葉をどうしても忘られない彼は、次第に自分の境遇に特別の注意を向けるようになった。
城全体の生活が女ばかりの内房と、男ばかりの表の翼とにきっぱり二分されているため、その間に、家族とか夫婦とかいう生活の形式を、まるで知らなかった彼は、シャラフシャーのする物語の中から種々な疑問を掴み出して来た。
スーラーブは、傍に坐って、小刀を研ぎながら話をするシャラフシャーに、子供らしい遠慮を以て訊いた。
「ねえ、シャラフシャー、この間
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