い。
 イランの陣から、しんとして曠野をツラン方の高地に向って歩いている間、ルスタムは、闇の裡に幾度か、古いサアンガンの王女の俤を偲ぼうとした。あれから血腥《ちなまぐさ》い出来事が多くあったせいか、記憶はひどくぼんやりしていた。例えば、彼女の髪に飾られていた金の輪の色のような些細なことは鮮明に思い出されるけれども、顔立ちの確な特徴などを考えようとすると、ぼんやり目先に浮んでいたほの白い卵なりの輪廓まで、段々遠く小さく後じさって行くようなのであった。ルスタムは、その間に横わる時を思い、淋しい心持になった。けれども、彼は一つはっきりした希望を持っていた。それは、若者の顔を見ることさえ出来たら、そして、そこに何か血縁の類似がありさえしたら、きっと逆に母親の顔も忽ち思い出せよう、それで両方一度に明かになるという考えであった。ルスタムは、天幕に顔をつけ、息を殺し、賤しい奴僕のような態度で内部を覗いた刹那、何か頼りない衝動を感じた。彼が、当にならないことと思いながら当にしたものは、若者の顔から射出していなかった。何も彼の直覚を一握りで捕えるようなものはない。ただ雄々しそうな、育ちのよさそうな、一人
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