の若者の容姿が、静かに順々に、彼の切な瞳に映って来るばかりだ。
 ルスタムは、暫く瞠《みつ》めた後、またそっと上体を地面に倒した。頬杖をついて眠っている一人の兵が、寝がえりを打ってルスタムの脇腹に触れた。ルスタムは、じっと考えながら、少し体をずりよけた。あの若者の細面てなところが、何処か、あの女と似てはいないだろうか? いやいや、一体にツラン人は面長だ。この若者に限ったことはない。然し、牽きよせられるように、ルスタムはまた膝で起き上った。そして、眼をすりつけるようにして、内を覗いた。彼にはどうしても、一度視た限りで思いきれない心があった。こうやって若者の顔を目前に見れば、彼が、あかの他人であることは疑う余地なくわかるのに目先が離れると、未練な妄想が再び起って来る。ルスタムは、自分に対して腹立たしい気持にさえなって来た。こんな馬鹿らしい、不様な真似をしたことなどは、ギーウにも話せたものではない。心に呟きつつ、またまた彼は、殆ど無意識にのび上って、塵臭い、がばがばした革天幕に皺深い顔をすりよせる。
 三四度それを繰返し、ルスタムは、がっかり地面に突伏した。張合のない、詰らない気がしみじみと
前へ 次へ
全143ページ中85ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング