が山の懐に消え込んだように見えた。次第に目が闇になれると、ルスタムは、ツラン方に光る篝火の、すべての遠近を区別出来るようになった。一つのかなり大きい燃火は、どうも太陽のあるうち、見たあの大天幕の前あたりで燃えているらしい。ルスタムは、自分で心付かない、必要以上の緊張でよくよくその点を凝視した。彼は、目に見えない生きものが、心臓の中で微かにひくひくと身動きしたような気がした。確にその篝はあの天幕の近くで、瞳を凝すと、天幕の斜面の一部分がその明りに照り出されているのも見わけられるのだ。
ルスタムは、ぶらぶら歩きながら、幾度となくその方を眺めた。一度眼が其方に向くと、容易に引はなされなかった。明りはルスタムの心に、だんだん光明を増し、誘惑の力を増した。全く、ルスタムはその篝火の色や、静かに反映している天幕の面を視ると、もっと近くもっとよく其処にいる者、あの兜の男を見極めたい慾望が、制し難く募って来るのを感じた。ひっそりした天地の間に輝くその光は、時々ぱっと揺れ、燃え立ちながら、溢れるような囁きで、「一寸今の間に、よい時ではないか。来て覗け!」と誘っているようにさえ思われる。ルスタムは、何か
前へ
次へ
全143ページ中79ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング