軍に加わってイランに行き、親くルスタムの顔を見知っているということが、ひどくスーラーブをよろこばせた。(このことは、スーラーブの満足であっても、彼等にとって冷汗の出る記憶が伴っていた。十年昔、アフラシャブは三度目の決戦をする覚悟で、大軍を率いてイランを攻めた。アフラシャブは前回が失敗であったにも拘らず虚を衝くつもりで、一年も経ず、また出かけたのであった。が、矢張り勝算がなく、或る日の合戦で、アフラシャブ自身が、ルスタムの捕繩で首をからまれてしまった。白いラクーシュにのったルスタムは、確かり馬上に踏ん張り、大力を出して、引きよせようとする。アフラシャブはすっかり動顛し、叫び、藻掻《もが》いて抵抗しようとするが、力かなわず、腑甲斐なく、乗馬の尻を地にすって引よせられる。駆けつけたフーマンとバーマンが、剣を振り、やっと、太いルスタムの捕繩を断ち切った。その時、ルスタムが、銀のように輝く兜の下から、大きな目で、凝っと彼等を見据「ツランの痩狼! 主人を助けに出て来たな」と云ってカラカラと笑った。この話は、当時ツラン全土に伝えられた有名なもので、スーラーブの子供心にさえ鮮かな驚異を与えた。)
 必
前へ 次へ
全143ページ中51ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング