ことは、明かであった。然し理由は、シャラフシャーにさえ説明しない。もとより、スーラーブは、悪賢い旅商人などの云うことを、何処まで信用してよいものか、弁《わきま》えるべきことは知っていた。けれども、意外の事実を知った時に来合せた。とにかく城内の誰より、イランに就ては詳しい話を聞かされると、彼は、どうしてもそれに無頓着ではいられなくなった。スーラーブは、父に対して当途のない感動に燃えていた思慕の心が手がかりを得、実際の纏った力となろうとして頻りにうごめき出したのを感じた。
このままではいられない、何とかしよう。どうしたらよいか、という執着の強い、絶え間ない囁きが、彼をつけ廻し出した。彼の不安に拘わらず、夜は眠れないほどの苦しさにかかわらず、唯一の考えは、彼の全精力を集中させようとする。スーラーブの心も、体も、魔もののような「どうしたらよいか」という渦の囲りに、離れようとしても離れられない不可抗の力で吸よせられた。彼は、日常の出来事に、溌溂とした注意を分離し、滞りなくそれらを処理する愉快さなどは、まるで失った。事務は皆、シャラフシャーに任せきってしまった。そして、愈々《いよいよ》寡黙に、愈
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