《ものう》そうな声で、
「卿は、イランから来たのか?」
と訊ねた。
「仰《おおせ》の通りでございます。宝石の珍しいものを集め、君様の御意を得ますには、どうしてもイランから東へ、参らねばなりませんので……」
 スーラーブは、わざと、見る気もない土耳古玉を一つ手にとりあげて弄った。
「イランに変ったことはなかったか?」
 商人は、ちらりと、スーラーブと、スーラーブを見るシャラフシャーとを偸見《ぬすみみ》た。そして、さも滑稽に堪えないという表情を誇張して笑った。
「いや、もう変ったというほどを越した話の種がございます。丁度、私がイランの王廷に止まっておりました時のこと。御承知の通りあのカイ・カーウスと申す方は、神の秤目が狂って御誕生ですから……」何処かの、彼より馬鹿な男が、宴の席で、鳥のように天を翔べたらさぞ愉快だろう。イランほどの大国の王は、誰より先に、蒼天を飛行する術を極めるべきだと云った煽てに乗った。そして、七日七夜、智慧をしぼった揚句、或る朝、臣に命じて、二十|尋《ひろ》もある槍を四本、最も美味な羊の肉四塊、四羽の鷲より翼の勁い鷹を用意させた。
「それで何をしたと思召します?」
 宝
前へ 次へ
全143ページ中37ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング