くるんだ一粒の玉を出した。

        十四

 彼は、ありもしない塵を熱心に宝石の面からふき払うと、それをスーラーブの眼の前につきつけた。
「如何でございます。これこそ、若い、勲《いさおし》のお高い君様になくてはならない、という飾りでございましょう。御覧なさいませ。ただ一色に光るだけなら、間抜けな奴隷女の頸飾でもする芸です。ほら」
 商人はうまく光線を受けて、虫の卵ほどの宝石をきらりと、燐光のような焔色に閃かせた。そのまま一寸光の受け工合を更えると、玉は、六月の野のように、燃る肉色や濃淡の緑、溶けるような空色、深い碧をたたえて色種々に煌《かがや》く。
「この一粒が、百の、紅玉、緑石に当ります。イランの王は、この素晴らしい尊さの代りに、失礼ながら私共の嚢の中では屑同様な縞瑪瑙《しまめのう》に、胎み羊二十匹、お払いなされました」
 彼は、狡く瞼も引下げ、悪口でスーラーブに阿諛《あゆ》した。シャラフシャーに、珍らしい蛋白石を手渡していたスーラーブは、その言葉で、俄に心が眼醒めたようになった。彼は思わず男の顔を見なおし、唾をのんだ。そして調子を変えまいと思って、却って不自然な、低い物懶
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