他の三四人の姿が見えると、彼は、慌しく坐りなおし、額と両掌とを床にすりつけて跪拝した。スーラーブは、拡げられた敷物の上に坐った。坐が定まると、宝石売の男は、黒い釣り上った胡桃形の眼を素ばしこく動かし、スーラーブの顔色を窺《うかが》い窺い、仰々しく感謝の辞を述べた。そして、卑下したり、自分から褒めあげたりしながら、荷嚢から、幾個《いくつ》もの小袋を引出し、特別に調えた天鵞絨《ビロード》の布の上に、種々の宝石を並べた。それを引きながら、スーラーブの前に近く躪《にじ》りより、下から顔を覗き、身振をし、宝石の麗わしさ、珍らしさなどを説明する。
スーラーブは、寧ろうるさく、速口の説明をきき流した。けれども、流石《さすが》に、宝石の美しさは、彼を歓ばせた。
小柄な黒い眼の男が、器用にちょいと拇指と人さし指との先につまんで、日光に透し、キラキラと燦めかせる紅玉や緑玉石、大粒な黄玉などは、囲りの建物の粗い石の柱、重い迫持と対照し、一層華やかに生命をもち、愛らしく見える。母のためにと思って、スーラーブが蕃紅花《サフラン》色の水晶に目をつけると、商人は、いそいで別な袋の底をさぐり、特別丁寧に、羊の毛で
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