いのか、憎んでよいのかも判らないというのは、楽な心持ではありません。……云って下さるでしょう? 今日迄持ち堪えたら、母上の義務はすんでいるでしょう?」
 スーラーブは、なにか黎明の日の光に似た歓ばしい期待が、そろそろ心を溶かすのを感じた。胸の中では「吉報! 吉報!」と子供らしい叫びをあげて動悸が打つ。彼は、単純に云った。
「父上は、どうされたのです? とにかく愧《は》ずべき人間でないのだけは確かですね」
 しかし、母は、彼の亢奮をともにせず、一時に甦って来た過去の追想に包まれきったように打沈んで見える。彼は、同情を感じた。
 そして、自分も地味な心持になり方法を変えた。
「こうしようではありませんか、母上。今迄隠して置かれたのには何か深い訳があったのだろうから――私が、ききたいことだけを問《たず》ねましょう。簡単にそれに答えて下さい」

        九

 何から先に問《たず》ねるべきなのか、スーラーブが手がかりを求めているうちに、ターミナは、俯向《うつむ》いていた頭を擡《もた》げた。そして、低声に然し、はっきり云った。
「それには及びません。私が話しましょう。卿がこの飾りに目をつ
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