ーブは、真直に母の眼を見た。
「母上が誰か忘れられない人からでもお貰いなされたように思われてならないのです」
 彼は、この一言に、重い使命を与えた。若し母が、自然に「まあ! 何を云う!」という顔か、笑いでも洩せば、スーラーブは、自分の想像が的外れであることを認めるしかないと思ったのであった。がターミナは、かくし終せない、心を衝かれた色でスーラーブを見かえした。彼女は、明かに、直は言葉も続けかねたのである。彼は、今更、心が轟き、指先の冷たくなるような思いに打たれた。彼は心を落つけ、礼を失わないように、一歩を進めた。
「不しつけな云いようで、すみませんでしたが、どうぞ悪く思わないで下さい。不断から折があったらと思いつめているので、おやと思ったら押えかねたのです」
 スーラーブは、劬《いた》わるように改めて尋ねた。
「ほんとに、私の想像は当っているでしょうね? 母上、そのお返事なさって下さい」
 ターミナは、彼の印象に永く遺った重々しい感情をこめた動作で左手を額にあげ、静かに、そこを抑えた。
「そんなに心にかけておいでだったのか」
「――私ぐらいの年になって、父の名を知らず、その人を愛してよ
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