六

 晴々として快活な時には、愉快な無頓着でスーラーブは、自分の運命を、稍々《やや》滑稽化しさえした。もうミスラの子というお伽噺《とぎばなし》に信仰を失っていはしても、まあよい時が来る迄神の息子という光栄を担っていよう。誰が父であるにしろ、自分が誰からも冒されないサアンガンの王であるには違いないのだ、と気安く淡白に思う。然し、折にふれて激しい憂鬱が心を圧し、彼から眠りを奪うことがあった。自分の誕生というものに最も忌わしい想像がつきまとった隠されている父の名は、或は、実に恥べき人間と場合とに結びついているのではないだろうか。自分が生れたのを母は、怨みで迎えたのではあるまいか。そう思うとスーラーブの、青年らしい生活の希望は打ちのめされた。
 彼は、見えない自分の血の中に、洗っても洗っても落ちない何者かの汚染が滲み込んでいそうに感じた。何時か自分が、我にもない醜悪さを暴露させるのではあるまいか。生きていることさえ恐れなしとはいえない。
 そのような疑惑に苦しめられる時、スーラーブは、時を構わず、馬に鞭をくれ、山野を駆け廻った。彼を、致命的な意気消沈から救うのは、僅に一つ
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