の反抗心があるばかりであった。
「よろしい。母に自分を生ませた男が、最も卑劣な侵略者なら構うものか、そうあらせろ、自分が、母と自分の血を浄めて見せるぞ。賤しい男の蒔いた種からどんな立派なサアンガンの糸杉が生えたか、見せて遣ろう」
 反対に、何ともいえない懐しさと憧れとが、天地の間に、自分という生命を与えた父に対して、感じられることもある。
 深い、生活の根柢に触れるこれらの感情に影響され、スーラーブは年に合わせては重々しい、時に、憂を帯びた威で、見る者を打つ青年になった。
 彼の日常は、戦士の理想に叛《そむ》かなかった。簡素で、活動的で、女色にも耽らなかった。サアンガンの統治者としての声望は、若い彼として余りあるものがあった。けれども、心の裡に深く入り、喰い込んでいる愁を彼と倶に感じるものは、恐らく誰一人いなかったろう。スーラーブは、自分の武勇や心の正しさなどというものが、一方からいえば、皆悲しい一つの反動であるのを知っていた。彼は、生長すればするほど、祖父の臨終の一言を畏れた。たとい運命が、自分の前に何を出して見せても、動じない自信を持ちたいばかりに、男を練る唯一路である戦士の道を励
前へ 次へ
全143ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング