者の顔つきは、昨日、一昨日のそれとまるで異っていた。覚悟をきめて容赦しない男の猛々しい激しさが眉宇の間、唇のまわりに漲っている。スーラーブも、これが昨日、あの胸を揺するような涙をこぼしたイランの老戦士かと、愕きあやしんで対手の顔を視た。老戦士は、十も若返って見えた。黒い切れの長い大きな眼は烱々《けいけい》と光った。体じゅうが、すっかり我ものになりきったという強靭な意気込みが満ちている。互は互に、鋭い用心を感じながら、鉾を合せてじりじりとつめよった。
四十九
重い鉾が打ち合う毎に響は、空気の中に長い尾を引いて顫えた。スーラーブは、二度対手の肩に、強い打撃を加えた。イランの老戦士は、獣のように呻き、少しよろよろとし、直踏み堪えて、今度はスーラーブの脚に、殆ど薙倒しそうな横払いを与えた。スーラーブは、唸って対手に飛びかかった。火花の散りそうな、息のつまる、早い、強い打ち合いで、二人は鉾をからみ合せたまま傍に放りなげ、焦立ったように組合った。これは、ルスタムの思う壺であった。
彼は、ツランの若者がわざわざ馬から降りて出て来た時、何を目論んでいるか、すぐ感じた。そして、不
前へ
次へ
全143ページ中131ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング