っても、その頸飾一つが父への形に現れた絆であった。余り冒険的な機会に曝してはという考えで制せられた。
 仕度を調えて出て見ると、陣中に、昨朝とはまた違う一種の生気が漲っていた。兵等は、彼を認めると、勢のよい、砕けた丁寧さで声をかけ挨拶した。彼等の眼付や素振には、スーラーブの胸に暖さと愁いとを同時に感じさせるものがあった。単純な心で、自分等の統帥者が強いと、頼むに足りることを知った者共は、彼を迎えると、自分等の間から選出した格闘士でも仰ぐように、あらわな贔屓《ひいき》、称賞を示す。スーラーブは、複雑な感情で、軍列を整理した。そして昨日とほぼ同時刻に、ツランの陣を離れて、空地の中央に騎り出した。
 イラン勢の中からも、灰色ずくめの戦士が立ち顕れた。どういう訳か、今日は徒歩立ちで、鉾の代りに太刀を佩《は》いている。
 スーラーブも馬から降りた。兵卒が駆けて来てその馬を引き戻った。ツラン方から、熱情の籠った声援が湧き起った。イラン勢からは、刺戟的な、太鼓の響が伝わって来た。
 イランの戦士は、スーラーブの眼に、昨日よりずっと穏やかに、礼儀深く見えた。彼は、あんな劇しい様子は示さず、対等に振舞っ
前へ 次へ
全143ページ中111ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング