は?」
「さあ」
 スーラーブは、同じアフラシャブの腹心でも蒼白い無感動のバーマンより、フーマンロサーに人間らしい天性の率直さを感じていた。フーマン自身もそれを知り、何か状態が複雑になりかけると、自分の単純な激情に駆られる性質を恐れるように、冷静な、狡智に長《た》けたバーマンを傍に持とうとする。今、バーマンのいないこととて、スーラーブに希わしい機会なのだ。彼は、フーマンに盃をすすめ、自分も一啜りしながら云い始めた。
「まあ、とにかく今日は余り成績も悪くなかったようだが。――一体、あのイラン方の戦士は誰かね」
 フーマンは、赧い顔を手の平で一撫でし、酔いが発したように、卓子にがっくりよった。
「さてね。儂にも判りませんな」
「卿などは、幾度もイランの将等と、手合せしているのだから判らないとはいえない。――誰だろうな。――また、明日のこともあるから訊くのだ」
「ふうむ。――バーマンに訊いたら判るかもしれない」
 フーマンは柄になく張のない調子で呟くように云った。そして、さも酔漢らしく頭をふりあげスーラーブに云った。
「どっち道、敵の端くれだから、まあ腕を振って片づけて下さい。今日の勢で行け
前へ 次へ
全143ページ中108ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング