、暑い平地を彼方此方に走った。イランの戦士の顔からも、ツランの若者の顔からも、汗は雫になって流れ出した。荒い互の呼吸の音が、鳥の羽搏のように聞えた。一騎討ちは、いつ終るともしれなかった。両軍の将卒は、固唾をのんで成りゆきを視守った。特にツランのバーマンは、イラン戦士の普通とは逆な鉾の持ち方で、すぐルスタムと知った。彼は粘液質な顔に、激しい動乱の色を浮べ、フーマンのところに駆せつけた。フーマンもこの前の戦いの経験で心づくところがあったと見え、すぐ列を離れ、彼と会った。彼等は一言も云わず、眼を見合せただけで、意味を諒解した。そのまま並んで、一騎打を視た。戦士等の動作には、劇しい疲労が見え始めた。馬も、全身汗にまびれ、脇腹は破れそうに波打っている。すると、イラン勢から、一騎、逞い戦士が列を離れ、また新な勇気を盛返して鉾を振ろうとする二人の戦士等の方に進んだ。バーマンはそれを認めると、急いで馬をけり、其方にかけつけた。激烈な、この一騎討は引分かれ、また明日勝負を争うことになった。
 大部隊の接戦で、ツラン軍は九十余人の死者を出した。イラン勢も、ほぼ同数の者を失ったが、重傷者は、却ってツラン方よ
前へ 次へ
全143ページ中106ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング