衡を失いかけた。あいにく、兜とその下の面覆いで顔全部は見えず、従って、母ターミナにきいて来た眉の上の大黒子などの有無は見ることさえ出来なかった。けれども、父の他にイランにこの年配の戦士が在ろうか。スーラーブは、心も心ならず、屡々顔を見、遂に、万一を恃《たの》んで訊いて見た。むごく撥ねつけられ、その精神の沈みがもとに整いもせぬうち、相手は、まるでその質問に煽られたように打ちかけて来る。
一度二度、スーラーブは、寧ろ、馬の機敏な本能で、敵の打撃から免れ得た。やがて彼も力を凝し、剽悍になった。ルスタムでないなら、早く片付け目ざす人に出会おうと、燃える力が、若いスーラーブの筋骨に、筋金入りの威力を与えた。蕁麻《いらくさ》の生えた地面は、駈け寄り、引き分れる二頭の馬の蹄の下で、濛々と塵をあげた。ぎらつく日光を掠めて、イラン戦士の鉾が飛んだ。さっとくぐりぬけ、ツランの若者が、鉾をふりかぶった。蹄の入り乱れた音の間にぶつかる鉾が、尾の長い、凄じい響を立てた。十度に一度、何方かの鉾が、敵の体か、乗馬に触れた。人間は、歯を喰いしばって呻き、その打撃を堪えた。馬は、恐怖して嘶き、跳上り、暫く乗手を忘れて
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