ュアンスを失うまいとしながら社会の現実観と自己の創作方法との間に生じている悲劇的な裂けめにはさまって苦闘しているばかりではない。現代文学のその裂けめから、おびただしい土砂崩壊がおこっている。それがより若い文壇の世代の足を埋めているばかりか、不可避的にそれらの文学の読者であるよりひろい人民層の中から新しく別個の社会的素質をもってのび立って来ようとしている民主的な文学の芽生えさえも、その成長を歪め、畸型にする作用を及ぼしている。いわゆるかすとり[#「かすとり」に傍点]小説の影響がどんなにひどいかということは、さきごろ国立癩療養所の病者によってつくられた作品集をよんでも、まざまざと感じられた。これらの不幸な人々は、自身の不幸についてさえまともな人生問題、社会問題として正面からとりくむ態度を、いわゆる流行小説の手法にはぐらかされている。安価なフィクションとよみもの的な情景の設定で、人間の悲痛を猟奇にすりかえてしまっている。
勤労者としての生活を営んでいる人々の「文学ずき」が、同じく現代文学におこっているなだれ[#「なだれ」に傍点]の下じきになっている。そして「細雪」は「天然色映画のようにたっ
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