もなければ、生きようとする本能と最少抵抗線をたどりやすい日本の精神の体質にまかせて、どっちかの木の股にすがりついてしまうにまかせておくことは歴史の前に許されない。その責任を痛切にわが日々の文学活動において感じれば、民主的批評の方法が、もっともっと民主的人民の理性として、その感情にまで血肉化されたものとならなければならないことを見出さずにいられないと思う。民主的批評は、よい文学として、それをよむ人々の胸に訴え、おちいっている矛盾からの発展的脱出を意欲させ得るものでなければならない。批評も、平和のためにたたかい民族の愛のためにたたかいつつある人民的な人格の力と火とをもたなければなるまい。
過去の文学に生い立った作家のもっているいくつかの困難の一つは、その文学の根がただ一つ個性をよりどころとしていて、より社会的なものを展望しても、展望そのものが性格の枠を脱しきれないところにある。知性さえも先ず個性的な造型であらなければならなかった。
民主的な文学をこころざして生れようとしている作家たちにとっての困難は、人民的な立場として共通な現実観の客観的な同一性(階級の人としてだれも大体同じな世界観
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