」。一九三六年のダイジェストの調査は調査ごとに五〇万ドルの費用をかけ一千万枚のアンケートを発送し、二、一五八、七八九の回答にもとづいて行われた。この大仕掛のダイジェスト世論調査が、何故にとりかえしのつかない大失敗に終ったかというと、そこには実におもしろい社会の現実のモメントがある。三六年のルーズヴェルト大統領選挙のとき、ダイジェストの世論調査所がアンケートを送りつけた人々の名簿は、電話と自動車所有者からとられたのだそうだった。いかに古フォードがやすく買えて、労働者農民が電話、自動車をつかう率の高いアメリカでも、全国の経済が下降期にあって、農民の恐怖と、破綻を物語るスタインベックの「怒りの葡萄」がベスト・セラーズとなっているのが当時の社会の現実の面であった。ダイジェストがアンケートを送った電話・自動車所有者名簿には、数百万の失業者、もっと多数の半失業者、貧農とその妻たちその娘たちの名はのっていなかった。しかし、これらの名簿から消されながら生きているアメリカの、現実の有権者たちは、いくらかでもましな社会をのぞみ、そのためにましと思える候補者に投票した。
 ダイジェストが失敗した一九三六年時
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