い社会の通念を計らずも裏から合せ鏡で照り返しているようなものだといえます。
それにもかかわらず、昨今はいくつかの事情が輻輳して、ますますその仕事と職業との分裂が強まって来ている。そういう傾向の一番あらわれ易い文学の領域などではこの現象がまことに顕著です。直接生計の不安のない夫人たち、家事はほかのひとにまかせることのできるだけゆとりある社会的環境の女の人々がある意味で進出して来ています。これは、今日の文学そのものの問題も一面にふくんではいるが、そういう条件をもった婦人たちの文学の仕事ぶりと、一方に、真の意味で若い時代の声を反映するような新しい婦人作家の誕生と発育の困難性とを客観的に比して見ると、単純に女の文化は高まりつつあるといい切れぬものがある。今日の現実生活のうちで、仕事と職業とを切りはなして考えるひとの事情というものは、多く何かの意味で特殊なものです。その特殊な環境の作用からある意味での貴族主義、ひろい目から見るとある意味での独善に傾く危険がなくは無い。大多数の女のひとの今日の生活は逼迫の度を加えられていることは実に明らかなのですから。サラリーマンの妻としての暮しにおいても、サラ
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