えずにはいられない。一人一人の若い女性が身にあまる現代の疑問と慾求とに満ちて生きている。そこへ、選挙権が与えられた。ひしと身に迫り、身内に疼いている生活上の様々の問題に対して、自分の一票は、どんなに力となってそれを展開し解決に向けて行き得るであろうか。どこへ一票を投じたならば、生活そのものから湧いている多くの願いは正直に答えられ偽りなく行動されるのであろうか。
 真面目な若い女性にとって、自分たちがもつ選挙権の行使ということは、生きてゆく良心の課題として立ち現れて来ているとさえ思えるのである。
 若い、敏感な女性たちは、政治に対する自分の判断に、自信がもてないのではないだろうか。自分がまだ十分の経験や常識をもっていない、という不安ばかりでなく、もっと広く、もっと深く、日本の女性全般が本当には何も分ってはいないのだ、という普遍的な頼りないこわさ[#「こわさ」に傍点]を感じているのではないだろうか。何も判らないという感じは在りながら、一方にはっきりと、もう騙されて生きたくはないという気持がある。言葉をかえて云えば、もう騙されて生きていきたくはないからこそ、自身の一票の処置について、判らなさ
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