の話題にふれたとき、少くとも隣組の婦人たちの間では、婦人の参政権に対する興味の気ぶりさえも見られないということであった。「そんなことより食べることに忙しくて」と云う表現もきかれた。成程、そういう片づけかたをしている部分も決して少くはないであろう。しかし、最近の十数年間に、夥しい社会の波瀾にたえながら、少女から成熟した女性へと生きて来た今日の若い婦人たちが、そういう主婦たちと同じような心で、自分たちの行使すべき権利について考えていると思えば、それは一つの大きい謬《あやま》りであると思う。
今日二十五歳前後の女性たちと云えば、十四年に亙る戦争の損傷を、最も深く蒙っている人々である。彼女たちは、自分の豊かなるべき青春と、若々しく闊達なるべき人間性が、あらゆる面でどんなに痛めつけられ、無視され、破壊されて来たかということを、めいめいの皮膚で知っている。そのような非道な力の下でしかも猶よく生きようと念願しつづけて来た自分たち若い女性の心情を、いつくしんでやまない情熱をも持っているであろう。生きてゆく上に経済事情がどんなに決定的な条件であるかという事実も、こうして女子の失業が強制されて来れば、考
前へ
次へ
全11ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング