会では次第に自分の教養を活かすような勤め口を見つけることがむずかしくなり、それは自身の書く便利のためにとった選択であると思いこみつつ、実は客観的な力に押されて、最も不熟練工的な厨房での仕事によって賃銀を得なければならなくなっているのが、社会の荒い波の間につきはなして観たところの事実なのではなかろうか。
私は、むしろ「白道」の作者が、先ずその現実にある一人の女としての自身の姿を見きわめ、それを文学作品に生かされることを切望してやまない。「恥と見栄をすてて労働を厭わなかったら」書くために命をつなぐことは出来ようと作者は書いている。人間がそれぞれの価値を十分発揮して生きうるような社会でないことは、社会機構の罪である。わたし達が女とし、作家として真に恥ずべきは、文学的労作をもふくむ現実の生活の中でその矛盾の探求を放擲したり、生活そのものは人間として当然憤懣を感じるべき種類の重圧の下におかれていながら、今日では未だ支配的な階級の文学に作家的努力の方向で無内容に追随し、文学のブルジョア的な偽態で屈服したことによって、実際は自身の皮膚にまでこの社会に於ける多数者としての窮乏が滲み出しているのにもか
前へ
次へ
全11ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング