見落されている急所
――文学と生活との関係にふれて――
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九三四年十一月〕
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九月号の『婦人文芸』に藤木稠子という作者の戯曲「裏切る者」という一幕ものがのっていた。私は雑誌を開いたときその表題を見たのであったがつい用事に追われ、そのときはゆっくり作品を読む機会を失ってしまった。
ところが今日、ある偶然のことから、「白道」という随筆の原稿を読むめぐりあわせになり、その随筆の作者が戯曲と同じ作者藤木稠子さんであることから、私は改めて戯曲をも読み直し、さまざまの深い感想に動かされたのであった。
「白道」で、作者は「私の過去の小さな生活記録」として、『婦人文芸』に「裏切る者」の掲載されたよろこびにつれ過去七八年間に亙る自身の文学修業の道を回想しているのである。農村の小地主の娘に生れ、物わかりのよい家兄のおかげで東洋大学にはいった作者が、その上級生の頃から文学的創作の慾望を感じはじめた。そして卒業後は自活のために非常に種々の職業を経験しつつ、現在では「エプ
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