ロンの裾をぬらして台所にはいずり廻る仕事」をしてやっと食いつなぎながらも、猶創作の勉強を続けているという、文学のために思いきわまった一人の女の閲歴が書かれているのである。
どんなことをしても書くことだけは捨てまいとする作者の一念こった心持が理解されるために、私には一層この率直にかかれた随筆の内容が文学修業一般の根本的な問題にもふれて、多くの感想を呼びさました。
「白道」によると作者は、書くことをすてまいとして、これまであらゆる職業を中途ですてて来ている。東洋大学を卒業してすぐ官立大学の図書館に働くことになったが、「執務においては常に専門家であることを要求され、又満足に職をつづけて行く以上は専門家の域にまで進まなくてはならない」「このままでいたならば、私は遂に何もかもなくなって了う。」そう焦慮して、作者は「思い切って職を抛擲し、専心文学に精進しようと思い立った。」
だが、二三ヵ月で、その生活は経済的にゆきづまって以来、作者は、S女史という婦人作家の助手をやり、聾唖学校の教師になり、紡績工場の世話係、封筒かき、孤児院の保姆、小新聞の婦人記者と、変転する職業の一つ一つを、どれも本気に創作
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