かわらず、遂にその現実から目を逸そうとする卑屈に陥ること、そのことをこそ恥としなければならないのではあるまいか。
 作者が、これらの点について、はっきりしたものを一つ腹にいれてかかりさえすれば、現在の、他人の台所から穴蔵のような四畳半の往復も、あながち誤った生活形態と云い切ることも出来ないのではないかと思う。そういう生活の時期に、作者は過去の生活によって得た見聞を文学作品としてまとめることも出来るであろうから――。
 先頃、私は、或る同人雑誌が、作家と生活の問題について諸家の意見を求めているのを読んだことがあった。
 作家が生活難をどう考え、どう解決してゆくかという問いであったと思う。それに答えている松田解子氏の言葉が心にのこった。松田さんは、作家の経済的窮乏の根源は社会的なものであると思うから、自分はそれにめげずに創作をして行くつもりである。創作してゆくことによって窮乏の実体をも正しく理解し得るようになるであろうと信じている、という意味の言葉であったと覚えている。
 この場合、松田氏は、自身の創作的態度をますます今日の現実の核心に触れ、作品を通じて更に現実に働きかえす力をもつものとす
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