過去のブルジョア作家連が、その身辺雑記や折々の写真やらで示す所謂「作家生活」というものを自身の生活にもあてはめようと思い、一面には、そういう作家生活なしに作品はかけぬという激しい不安に捕われたかのようにも想像される。
 この点で「白道」の作者は、その文学に対して抱く執着のつよさにも拘わらず、真の意味で文学の分野における新人として自身を押し出して行こうとする、健全な野心をすてていると思う。何故ならば、今日、世界の文学を通じて、何等かの意味で進歩的な役割を果す作品というものは、とりも直さず今日の社会を構成する多数者の生活感情、利害にふれたもの以外にあり得ない。そして、この世界の多数者をなしている男女の生活は自分の疲労の上に生きているという意味で「白道」の作者自身の境遇と少くとも同じ方向をもっている。生きるために働きながら、却ってその働きによって現実には死に追いやられようとする男女の苦痛と反抗が、詩となって迸り、小説となって湧き出す。それが、今日の社会の現実によって新たなものとされつつある新しい文学の社会的な基礎とその内容である。
「白道」の作者が、村の小地主である親から、文学勉強のための金
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