に居たんだ。通る人だれの足許にでもついてゆきそうにして居た。ね、パプシー」
「いきなりつれていらしったの?」
「いいや、暫く話をして居た。Here, Here, Puppy, give me your hand, give me your hand. なるたけ英語で喋った方がいい。」
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 見ると、稍々《やや》灰色を帯びた二つの瞳は大して美麗ではないが、いかにもむくむくした体つきが何とも云えず愛らしい。頭、耳がやはり波を打ったチョコレート色の毛で被われ、鼻柱にかけて、白とぶちになって居る。今に大きくなり、性質も悠暢として居そうなのは、わるく怯えないのでもわかる。
 私は
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「置いてね、置いて頂戴ね」
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とせびり出した。
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「裏の方で遊ばせましょうよ。ね、首輪がついて居ないから正式に何処の飼犬でもなかったのよ。ね、丁度みかん箱も一つあるから。」
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 良人は、
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「どれ」
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と仔犬を抱きあげ、北向の三坪ばかりの空地につれて行った。私
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