って、おそい昼食を独りでとって居た。玄関の格子が開く音がした。そして、良人が帰って来たらしい。出迎えた女中が、
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「まあ、旦那様」
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と、驚きの声をあげ、やがて笑い乍ら、
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「何でございましょう!」
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と云う声がする。
 私は、サビエットを卓子の上になげ出して玄関に出て見た。私も、其処のたたきにあるものを一目見ると、我知らず
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「まあ、どうなすったの?」
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と云った。
 其処には、実に丸々と肥えた、羊のような厚い白の捲毛を持った一匹の子犬が這って居るではないか。
 仔犬は、鳴きもせず、怯えた風もなく、まるで綿細工のようにすっぽり白い尾を、チぎれそうに振り廻して、彼の外套の裾に戯れて居る。
 私は、庭下駄を突かけてたたきに降りた。そして
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「パッピー、パッピー」
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と手を出すと、黒いぬれた鼻をこすりつけて、一層盛に尾を振る。
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「野良犬ではないらしいわね。どうなすったの?」
「つい其処
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