も後をついて出た。
地面におろすと、仔犬は珍しいところに出たので、熱心に彼方此方を駆け廻った。
小さいつつじの蔭をぬけたり、つわぶきの枯れ葉にじゃれついたり、活溌な男の子のように、白い体をくるくる敏捷にころがして春先の庭を駆け廻る。
私は、久しぶりで、三つ四つの幼児を見るように楽しい、暖い、微笑ましい心持になって来た。子供の居ない家に欠けて居た旺盛な活動慾、清らかな悪戯、叱り乍ら笑わずに居られない無邪気な愛嬌が、いきなり拾われて来た一匹の仔犬によって、四辺一杯にふりまかれたのだ。
私は少しぬかる泥もいとわず、彼方にかけ、此方に走りして仔犬を遊ばせた。馴れて裾にじゃれつき、足にとびかかる。太く短い足の形の可愛さ。ぶつかって来る弾力のある重い体。ふざけて噛みつく擽ったさ迄、私には新鮮な、涙の出るような愉快だ。
良人は縁側に出、いつの間にか
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「マーク、マーク」
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と云う名をつけて仔犬を呼んだ。
マーク。アントニーを思い出し私は微笑した。夏目先生のところであったかヘクターと云う名の犬が居たのは。――
此仔犬は、アントニーと云う貴族的
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