らっしゃるんでございますからねー、空は晴れてもまだ雪の消えなくて空と土面との境はうす紅とうす紫にかすんで、残った雪の銀のようにかがやく月に奥床しいかざりの女車に召して御出になったのでございます。そしてこれから御そばに召えようとする女達一人一人にかずけるものを遊ばして、
『これから又、いろいろ御世話になる事でしょう、二人でね――御気の毒ですけれど、どうぞね――』
とおだやかなうるんだ声でおっしゃったって女達は、
『どうしてあんなに御気が御つきなのでしょう、御姉さまは何もあそばさないのに一人でね――、どうでも私達は姫様によく御つかえしなくてはもったいないわけですワ』
と云ってあちらからついて来た人達ともよく折合て御つかえして居るんでございますよ」
「随分度々、母様などの噂にきいて居るけれ共そんなことは誰も今まで云って居なかった。そいでは随分苦労もして来た人なんだネー」
「エエエエもう、まだようやっと御十六に御なりなんでございますが、御考も御有りになり学問も身にしみてあそばして御いでですから御姉さまより御苦労が多くていらっしゃるんでございますよ。御歌なり、御手なり、音楽なり、御手のものでござ
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