錦木
宮本百合子

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)春《ハル》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)万|朶《ダ》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「さんずい+因」、179−5]
−−

        (一)[#「(一)」は縦中横]

 京でなうても御はなは咲いた
  恋の使の春《ハル》の小雨が
   たよりもて来てそとさゝやけば
    花は恥らふてポト笑んだ
     京でなうても御はなはさいた。
 にわかのあたたかさ、夢から現にかえったように、今更事々しく人の口葉にのぼる花見の宴をはる東の御館と云うのは、この里の東の方を一帯にのこって居るみどりの築土あるのがそれ、東の御館と呼んでも、この人とぼしい山里に対して呼ぶべき西の館もなく、其の名はただ、里の東方に有るからのわけで有る。館の殿と云うのは二十の声をおととしきいたばかりの若人、ともにすむ母君と弟君、二人ながらこの世の中に又とかけがえのない大切な一人きりの方達で有る。有っ
次へ
全109ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング