いますよ。この間中の女君の中で一番かけのない御方でございましょう、そんなことを申しては何でございますが若奥様よりもよっぽど何でございますよ」
女はまじめな熱心な様子ではなしをつづけて、
「ネ、若様、あの方なら貴方様の御方様に遊ばしても御立派でございますよ、御よろしければ……」
からかうように女は云って光君のかおをのぞき込んだ。
「マア、そんな事は云っこなしに御し、困るもの」
小さい声で云ってぽっと頬を赤くした。まわたにくるまって育った処女のように心の中で、
「私の心をしって居るんじゃあないかしら」
と見すかされたような心地がしてその視線をさけるように又巻物の上に目を落した。此の頃光君は、何となく淋しい悲しい心のどこかにすきの有るような心持の日がつづいた。光君は、美くしい色の巻物をしげしげと見ながらしずかに自分の心にきいて見た、「何故こんなに淋しいんだろう、もとと同じに暮して居るのに」
そう思って心の中に住んで居る小さいものにきこうとしてフト何か思いあたったようにそのほほをポッと赤くしてひそんで居るものを見出して居るようにあたりを見まわした。
「ネー若様、この頃貴方様はどうか遊ば
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