しましてすネー。私達にはもうちゃんとわかって居ります。もうちゃんとおっしゃったらようございましょうものをネー」
ほほ笑みながらさっきの女は若い小さいものをいたわるように云う。
「変だって、何にも自分には変な事はないんだけれ共、わかってるって何が分って居るの、おしえて御呉れ」
「御自分の御心に御きき遊ばせ、世の中の若いまだ世間を知らない方なんと云うものは、とっくに人の知って居ることをなおかくそうかくそうと骨折りをしてその骨折がいのないのを今更のようにびっくりするかたが多いもんでございます。貴方さまも其の中の御一人でいらっしゃいましょう」
「そんなことはきっとない、だけれ共ネ……マア好い、もうそんな事は云いっこなしさ」
光君は居たたまれないようにクルクルと巻物を巻いてわざと、机のわきにすわって、思い出したように墨をすって手習をはじめた。女はそうと立って行って光君の肩越しにのぞくとこの間の宴の時に紫の君の詠んだうたを幾通りにも幾通りにも書きながして居たので、何か見出したようにかるくほほ笑んでかげに行ってしまった。こんなにえきれない、うつらうつらとした日を光君は毎日送って居る。
毎日きま
前へ
次へ
全109ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング