った事はちゃんちゃんとして行ってもあとは柱にもたれてボンヤリして居たり何かもうどうしても忘られない事をしいてまぎらそうとするように、涙の出るような声で、歌をうたったり、琴をひいて居たりして段々何となく物思わしげな病んで居るような様子になって、三度のものなどもあんまりはかばかしく進まなくなった。女達はもうすっかり察して居るので、
「御かわいそうにネー、もう皆知って居るんですもの、そうおっしゃりさえすれば大奥様に御相談してどうにでもなるものをネー、又そこが御可愛いいんだけれ共」
「何だか物語りにでも有りそうじゃあありませんか、ネーそして夕方なんか、あの姿でうす暗いなかにうなだれて居らっしゃるところなんかはまるで絵のようです」
なんかと云い合って居る。
「ネー若様、ほんとうに大奥様に申し上げてもよろしいでございましょう、そうすればどうにでもなるんでございますもの」
と乳母はそれに違いないと思ったので云って見たがやっぱり、
「そんなことを幾度くりかえして云って居るんだろう。本人がそうでないって云ったら一番たしかだのに、ネ」
といかにもいやそうに云うのでそれもならずに、どうしたら好かろうと迷って
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