居る。この頃、気分がはっきりしないと云って朝から、被衣《かずき》をかぶってねていられるので乳母はとうとう大奥様――光君の母上のところに云ってやった。
「私からじかに文なんかをさし上げましてまことに失礼でございますが若様は何だか少し御様子が常と御変りになっていらっしゃります。彼の花の御宴の時からと申し上げましたら大抵御心あたりの御有りあそばす事と存じます。私もいろいろ申し上げて見ましたが何でもないとおっしゃるばかりで……
 どうぞ大奥さまから御文でも若様に下さいますように、この頃のうちしめった御天気の中で心配を持ってくらして居ります私の心も御察し下さいまして」
とこんなことを云ってやったんで母君のところから、家中で一番可愛いと云われて居る童が見事な果物にそえて文をもって来た。面倒くさそうによんで見ると、
「乳母のとこからの手紙に貴方の気分がすぐれないようだと云って来ましたが、もし体がわるければ典医を上げても好い――気に入った僧に御いのりをしてもろうてもいいでしょう。若い人にあり勝のことでなやんで居るのなら親身の私だけにおしえて下さってもいいでしょう。出来るだけの事なら力もそえましょうしネ
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