れる様に机の上に出た女君の手をとろうとした。だまってしずかに人形の様にして居た女君は光君の手をふりはなすと一時に卯の花の栢をスルリとぬいで生絹のまま袴を歩みしだいて唐びつの間をすりぬけて几帳のかげに見えなくなってしまった。取りのこされて気の遠くなった様にその行末を見まもって青ざめてふるえて居る男君はどんなに悲しかったのだろう。
「私の最後の望も絶えた、私の死ぬ時が来た、もう彼の人を再び見る時はないだろう」
 主のない文机にぬけがらの様になった体をよせると目の前には白いかみに美くしく手習がされてわきには歌も沢山綴じられて居る、それをじーと見て居た光君の目からは今更の様に涙が止度もなく流れ出した。涙にぬれたかおを白い紙の上にふせて気の遠くなるほど泣いて泣いて泣きぬいた男君は、
「こんなにないても自分の涙の泉はなぜかれてしまわないだろう」と不思議に思われた。
 心は段々と落ついて来た。それと一所に泣くよりも強い悲しみが胸をおそって来た。もう涙も出ない、光君の心は悲しみのかたまりになってしまった。
「私はもう二度とこの部屋に来ることはないだろう」
「オオなつかしいこの文机、なつかしいこの衣こう
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