こもったものであったのが、この頃は頬は青くこけて瞳は怪しい曇りを帯びてにごって香う様な鬢の毛許りがますますその色をまして居る、物凄い、さむい様な美くしさである。
光君は、朝夕鏡を見る毎に日ましにつやをます鬢の毛、日ましにこけて行く両の頬を見て淋しい微笑をうかべて居た、その衰えてますます美くしさのました体をかかえて光君はどんなに日影の斜[#「斜」に「(ママ)」の注記]くのを待ちあぐんで居ただろう。ボンヤリと脇息によってあてどもないところを見つめながら小さい吐息をついて自分の不幸な身の上を思って居られた、その様子を見た女達はこんなにお美くしい方をどんな方でもいやにお思いになるはずはないのに彼の方はほんとうに妙な御方と云い合って居た。夕方になった、待ちあぐんだ光君は幾日ぶりかにその身を部屋のそとに見せた。光君は長い廊を角々の柱に結びつけた赤の糸をたよりにたどって行かれた。道しるべの紅の細糸は親切に光君を迷わすことなく紫の君の部屋の前まで導いて来た。その人の部屋の前に立った時、光君は今更の様に胸をとどろかせてぬり骨の美くしい明障子の立った様子を見た、何の音もなくしずかな部屋の中には時々柔い衣
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