死んだらお前達はどうするだろう、お墓の中からのぞいて居たら面白いだろう」
とじょうだんの様に云った光君の言葉をきいた女達は心の中で、こんなにやつれていらっしゃるのだから何とも云われないとたよりなく思いながら、
「そうしたら女達はみんな黒い着物を着て髪を下してしまいますでしょう」
と年かさの女は答えた。
「お前方のなった尼さんは黒い着物の下に赤の小袿をかくして髪を巻き込んでおく位のものだろう。私が死んでしまった時にほんとうの真心から黒い着物を着て呉れる人はこの広い世界に一人も居ないのだ」
 そんな事を話した夜から光君は大変熱が上った。うわごとは絶えまなくもれた、その思って居ることを正直に云ううわごとは一言でも半言でも皆紫の君のつれなさを嘆いて居るのであった。乳母は悲しみと怒りにふるえながら、
「まだ彼の人は意地をはっていらっしゃると見える。何と云うにくらしい方だろう、きっと化性のものにちがいない」
とまで罵った。子供の様にたえられない様にすすり泣きをすることもあれば、いかにもうれしげに肩をすぼめて笑うこともある。女達はきっと光君はもうもとの心にはかえるまいと思ってどんなに悲しがっただろう
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