るで絵の様な、私はその涙を私のためにそそいで下さる様にとどれだけねがって居るかは貴女も知って居らっしゃるだろうに」
とうらめしい様に云いながらそのそばによると、思いがけなく声をかけられしかもそれが光君だと云うことを知った女君はにげるにも逃げられず声を立てるにもたてられず前より以上に深くつっぷしてしまわれる美くしさはなおます許りで夕暮のさびた色の中に五色の光を放つかの様に見えた。男君は女君の大きな衣の下から細工物の様な手をさぐり出してそっとこわれない様にと云うふうに握りながら、
「何故そんなになさるの、私はどんなに貴女のそのかがやく様なかおを扇なしで見たいと思って居たことでしょう、ネ、どうぞこっちを向いて下さい」
 女君のすき通る様に白い耳たぼはポーと紅さしてとられた手を放そうともしないで只小さくふるえていらっしゃる様子に光君は、
「どうしたら好いだろう、こんなに可愛い人を」とまで思いながら自分も小さいふるえた声で、
「私は何からさきに云ってよいやらわからない。私はほんとうにもう死んでも好い、貴女のかおを扇なしで見たから、貴女は自分のために命をなげうってまで辛い恋をして居る男を哀れとお思
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