淋しいほどのところがいいそうでもあるからなどと夢の様のはかないたのしさを思いながらゆられて居た。
女車の中の人達も、久々で野辺の景色や、里の女達に賞められたりうらやまれたりするので祭りに出た時のような気持になってうれしさにまぎれて居たが段々日影も斜になって来るしあう人もまれになると淋しさが身にしみて高く話して居た声もいつかしめってはばかる人もないのに御互に身をよせ合って何か話し合っては※[#「さんずい+因」、179−5]ぶ声が車の外まできこえるので男達までのこして来た妻の事などを思い出して足の運びのおそくなるのを年取った旅なれた男がいろいろに世話をやいて力をつけるのであった。光君は始終紫の君の事を思って居るので退屈はしないかわり時々溜息をついたり涙を流したりして居た。目的の町に入った時はもう日の落ちかける時であった。町に入ったと云うのをきいた女達は急に顔をなおしたり着物をととのえたりして今までの事は忘れた様に美くしい声で話し合ってはかるいさざめきを車のそとにもらして居た。男達も同じ事である。夕焼けのかがやきと相まってより以上に美くしく見える女達の衣の色は前よりも一層はげしく賞め言葉を
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